本の覚書

本と語学のはなし

Die Verwandlung


 『変身』の池内訳。

 Einmal, es war wohl schon ein Monat seit Gregors Verwandlung vergangen, und es war doch schon für die Schwester kein bosonderer Grund mehr, über Gregors Aussehen in Erstaunen zu geraten, kam sie ein wenig früher als sonst und traf Gregor noch an, wie er, unbeweglich und so recht zum Erschrecken aufgestellt, aus dem Fenster schaute.

 グレーゴルの変身からひと月あまりがたち、妹にとってはもはや、グレーゴルの姿を見てもびっくりするいわれがなくなっていたころのことだが、彼女はいつもより少し早くやってきた。そのため窓から外を眺めているグレーゴルとぶつかった。直立不動の姿勢で、それでなおさら驚かせたのだろう。(55頁)


 最後の「直立不動の姿勢で、それでなおさら驚かせたのだろう」というのは、虫になったグレーゴルがどうにかして体を起こして外を眺めていたというので、その様子が妹を驚かせたという意味のように見える。
 しかし、これは文法的に不可能だ。「aufgestellt」は受動分詞であるから、妹を目的語として想定しているのではなく、グレーゴル自身が恐怖しているのである。少し前に、「Schon ihr Eintritt war für ihn schrecklich.」(すでに彼女の入室自体がグレーゴルには恐怖だった)という記述もあった。
 すると、これは直立不動の状態でいるところを妹に見られた(「unbeweglich」は単にじっとして動かないことだが、外を眺めるときは椅子を支えにして窓にもたれかかるという記述が少し前にあったのを参考にしているのだろう)、その事実がグレーゴルを驚かせたのだ、と言いたいのではないかと考えつく。
 再び訳を見るが、どうしてもそんな意味には取れない。不思議な訳だ。