本の覚書

本と語学のはなし

Bel-Ami


 『ベラミ』の杉訳。

 En une heure, il eut terminé une chronique qui ressemblait à un chaos de folie, et il la porta, avec assurance, à La Vie française.

 一時間で、一編の中間読み物を書き上げたが、それはまずあほだら経にそっくりのものだった。彼はそれを、自信たっぷりで、ラ・ヴィ・フランセーズへ持って行った。(上104頁)


 久しぶりに時代がかった翻訳を見つけた。「中間読み物」とか「中間小説」という言葉も今ではほとんど聞かないが、それよりも「あほだら経」を使いこなせる翻訳家などもはやほぼ死滅しているのではないか。*1
 「あほだら経」は仏教の陀羅尼にかけた言葉。江戸時代中期、願人坊主の歌った俗謡。世相を風刺したこっけいな文句を、木魚をたたきながら経のように唱えたもの、と『新潮国語辞典』の説明にある。
 昔は『アエネーイス』に「阿鼻叫喚地獄」という言葉が出てきたのを見て怒り狂ったこともあるが、最近はこの手の翻訳を見るとむしろ楽しく微笑ましくなる。

*1:「中間読み物」は「une chronique」、「あほだら経」は「un chaos de folie」の訳。

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