本の覚書

本と語学のはなし

『The Moon and Sixpence』


●W. Somerset Maugham『The Moon and Sixpence』(Dover
モーム『月と六ペンス』(行方昭夫訳,岩波文庫
 集中して読めば結構読めるもんだ。夕方から始めて、文庫本40ページ分の原文と翻訳を読んだ。一々辞書を引きながらこれだけの量を読んだのは初めてかもしれない。


 『月と六ペンス』は、学生の頃、私が初めて原文で読み通した英語の長編小説だった(と思う)。あの時は辞書を使わず、粗筋だけ追っていた。かなり理解しているつもりでいたけど、きっと当時は何も分かっていなかったに違いない。それでも、芸術のためにすべてを犠牲にするストリックランドと彼に捨てられ自殺するストルーヴ夫人が、個人的な事情もあって大変こたえたものである。
 今回はその思い出の作品をていねいに読み返してみたわけだが、何といっても行方訳に学ぶところが大きかった。翻訳の秘密が知りたくて原文を読むこともあったくらいだ。初めて英語の読み方が分かり始めた、とても幸福な時間であった。
 ああ、もう一回行方訳に学びたい。今度は『サミング・アップ』がいいだろうか。ヘンリー・ジェイムズだろうか。


 ところで、昨日「ク・セ・ジュ」の訳を問題にしたが、今日読んだ部分に二カ所また出てきたので、一応書き抜いておく。フランス人医師の発話を「僕」がまとめたものである。
 翻訳には苦労の跡が見てとれるが、私には何が正しいのかよく分からない。

 When he had seen her he was taken into another room and given dinner ―― raw fish, fried bananas, and chicken ―― que sais-je? the typical dinner of the indigène ―― and while he was eating it he saw a young girl being driven away from the door in tears.

 診察が済むと、別室に案内させ、ここでご馳走を出させる。生魚、揚げたバナナ、鶏肉 ―― これが現地人アンディジェンヌの代表料理といったところでしょうかク・セ・ジュ。これを食べている最中に、若い娘が泣きながら戸口から追い払われているのが目に入った。(341頁)

 It was a vision of the beginnings of the world, the Garden of Eden, with Adam and Eve ―― que sais-je? ―― it was a hymn to the beauty of the human form, male and female, and the praise of Nature, sublime, indifferent, lovely, and cruel.

 天地創造、アダムとイヴ ―― そう言えば当たっているでしょうかク・セ・ジュ ―― のいるエデンの園、男女を問わず人間の肉体美への賛歌、それから崇高で、冷淡で、美しく、残忍な大自然の賛歌を描いたとは言えましょう。(368頁)


 次はディケンズの『クリスマス・カロル』。参照する翻訳は、新潮文庫村岡花子のもの。
 もしかしたら、ペーパーバックで読もうとした初めての作品だったかもしれない。直ぐに投げ出したのを覚えている。たぶん今度は読み通せるだろう?


The Moon and Sixpence (Dover Thrift Editions)

The Moon and Sixpence (Dover Thrift Editions)

月と六ペンス (岩波文庫)

月と六ペンス (岩波文庫)

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