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『イスラム金融入門』


門倉貴史イスラム金融入門 世界マネーの新潮流』(幻冬舎新書
 イスラム金融とは、簡単に言えば、イスラムの教えに基づいた利息のない金融のこと。基本形態は、「ムラーバハ」「イジャーラ」「ムダーラバ」「ムシャーラカ」の4つ。
 ムラーバハは、銀行が商品を購入し、それにマージンを乗せて客に売ること。客の支払いは後になるので、マージン分が利息のような意味を持つ。
 イジャーラは、銀行が商品を購入して、客にリースすること。リース期間終了後に所有権を客に移行する形態もあり、主として住宅ローンに活用されている。
 ムダーラバは、銀行が投資家からの出資金を様々な事業に投資すること。事業から得られた収益は、通常、事業者と投資家の間で折半にされるという。
 ムシャーラカは、銀行と投資家が手を結び、事業の共同経営を行うもの。収益は銀行と投資家の間で分け合う。
 応用編としては、「スクーク」というイスラム債や、「タカフル」というイスラム金融保険などもある。


 こういう仕組みの話は第一章で簡単に済ませ、あとはイスラム金融を振興する国々の状況を個々に報告し続ける。
 中でも、BRICs(ブラジル、ロシア、インド、中国)、VISTAベトナムインドネシア南アフリカ、トルコ、アルゼンチン)に続く、イスラム金融の有力グループMEDUSA(メドゥーサ)を詳しく取り上げている。MEDUSAを構成するのは、マレーシア(M)、エジプト(E)、UAEドバイ首長国(DU)、サウジアラビア(SA)の4か国。
 ちなみに、VISTAもMEDUSAも、著者の主催するBRICs経済研究所が提唱したコンセプトだそうだ。


 エピローグから、著者の言葉を引用しておく。


 筆者は、将来、「イスラム金融」がアメリカ型のグローバル資本主義の対抗軸になってくるのではないかと考えている。
 戦後最悪の経済事件ともいわれるサブプライム問題によって、アメリカ型のグローバル資本主義の限界やリスクがあらためて浮き彫りになった。アメリカ型のグローバル資本主義のもとでは、マネーが現実の経済活動を離れて暴走してしまうおそれがある。そして、膨れ上がったマネーは、バブルの発生と崩壊を通じて、あるいは物価の高騰を通じて(モノに対してマネーの量が増えると、マネーの価値が下がってモノの値段が上がる)、現実の経済活動に悪影響を及ぼす凶器にもなるのだ。
 その点、イスラムの教えに従う「イスラム金融」では、マネーと現実の経済活動が密接に結びついているので、グローバル資本主義のようにマネーだけが一人歩きしていくようなことにはならない。(216頁)