本の覚書

本と語学のはなし

仏月刊誌


★「Sélection du Reader’s Digest」Mai 2008
★「Le Monde. diplomatique」Mai 2008


 「週刊ル・モンド」は今の定期購読が終了したら継続しない。金額が高い。週刊誌とは言っても、日刊紙の記事のセレクションなので、深く掘り下げて分析しているわけではない。記事の新鮮さもない上に、しばしば配達が異常に遅れる。文体も不必要に凝っているような気がしてならない。
 そこで、月刊誌を取り寄せてみた。


 「リーダーズ・ダイジェスト」は平易な文章で、幅広い分野の語彙が身に付きそうな感じがする。しかし、興味を持って全部読むのは困難ではないか。


 4月号を取り寄せたときは読む気にはならなかった「ル・モンド・ディプロマティク」。5月号にはスラヴォイ・ジジェクの文章が掲載されていたので*1、早速読んでみた。
 タイトルは「Le Tibet pris dans le rêve de l’autre」となっていて、これはドゥルーズの「Si vous êtes pris dans le rêve de l’autre, vous êtes foutu.」という表現を借りたものである。
 単純に「善対悪」の構図を見てはならない、チベット問題を考えるなら9つのポイントを押さえよ、と言ってそれが列挙される。親チベット派からは怒りを買うであろうような内容だが、特にタイトルと関係深いところから引用しておこう。


 Notre fascination pour le Tibet fait du ce pays une entité mystique sur laquelle nous projectons nos fantasmes. Ansi, lorsqu’on se lamente sur la disparition d’un mode de vie tibétain authentique, on oublie les vrais Tibétains : ce que l’on veut d’eux, c’est qu’ils soient authentiquement spirituels pour nous, à notre place, afin que nous puissons continuer notre jeu consumériste effréné.


 だからと言って親中派であるとも限らず、産みの苦しみを経て、しかもなお民主化に行き着かなかった場合のことを心配して、論を結ぶ。


 Que se passera-t-il si la conjugaison vicieuse du knout asiatique et de la Bourse européenne se révèle être économiquement plus efficace que la capitalisme libéral ? Est-ce un signe que la démocracie, telle que nous la comprenons, n’est plus une condition et un moteur du développement économique, mais un obstacle à ce dernier ?


 福田和也は「ディプロマティク」を読む理由として、英語圏には見出されない、穿った、というより、ひねくれたような視点の魅力を挙げていたような気がする。
 私も「ディプロマティク」にしようかしらん。
 いろんな人がいろんなことを書いているから、フランス語の難易度は一様ではないだろうけど、この文章のジジェクに限って言えば(他のジジェクは知らないが)、フランス現代思想にありがちなほとんど意味をなさない意図的な悪文(?)とは違い、ごく標準的で、むしろ平易と言っていいくらいの読みやすさだ。


 ところで、日本の場合にはファンタスムとしてのチベットというのは、ごく一部の人を除いて、現実味がないかもしれない。善光寺聖火リレーの舞台となることを拒否したけれど、総じて日本の仏教界は反応が鈍かった。多分チベット仏教のエゾテリスムをもはや仏教とは見なしていないからではないかと思われる。
 日本の反中感情は、親チベットとは別の起源を持つであろう。

*1:『脆弱なる絶対』を書いた哲学者だと紹介されているので、間違いなくあのジジェクである。