本の覚書

本と語学のはなし

『英語の発想がよくわかる表現50』


●行方昭夫『英語の発想がよくわかる表現50』(岩波ジュニア新書)
 高校2、3年生から大学1年生あたりを対象とした本であるが、侮ってはいけない。
 「学校で聞いていないし、普通の参考書にもめったに出ていない英語についての大事な情報を、時に実用とかけはなれているように見えるエピソードを交えながら、様々な語り口で提供」(「あとがき」183頁)してくれているのだから、ペーパーバックに挑戦してみたものの挫折しかかっている社会人が手にしたって有益であるに決まっている。


 その上、英語の読み書きだけでなくて、翻訳入門としての性格も持っている。最もやさしい翻訳入門かもしれないが、英文和訳が出来るだけでは理解したことにならない場合も多々あるのだという、受験英語の中で忘れがちな大切なポイントを教えてくれる。
 単語は辞書で固定された意味との一対一対応で処理してはならない。翻訳は構文を正確に写し取ることではないし、まして構文を理解していることを証明するためのものでもない。それを理解した上で、原文をどこまで日本語の中に活かせるか(時に滑らかな日本語を犠牲にしてでも)というのが、殊に文芸翻訳における勘所のひとつであろう。


 もちろん、行方昭夫は他にも英文の読み方に関する本を書いているので、実力のある人はこの本から始める必要はない。私はこれから『英文の読み方』(岩波新書)、『英文快読術』『実践英文快読術』(ともに岩波現代文庫)、『英語のセンスを磨く』(岩波書店)へと進む。