本の覚書

本と語学のはなし

『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』

太田直子『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』(光文社新書
 字幕屋の著者が、その言語感覚にひっかかるおかしな日本語を斬ったり、業界の裏話を教えてくれたりする楽しいエッセー。
 私は映像翻訳にはまったく興味がないのだが、翻訳の勉強をするというと、たいていの人は出版翻訳か映像翻訳をやるのだと勘違いする。産業翻訳だと言うと、がっかりされることもある。というか、言葉にこそ出さないが、ほとんどの人が「なぁーんだ」という顔を一瞬作るのである。
 そんなわけで肩身が狭いので、字幕屋稼業のあらでも探したくなるわけだ。
 おお、これはやっぱり大変だ。字数制限によって意訳を余儀なくされるから、なんてことではない。それは字幕の本質というか、醍醐味なのだから。やっぱりというのは、映画を売りたい人たちの干渉が、時にえげつないということだ。つまり、私たちは配給元の戦略に沿って捻じ曲げられた字幕を読まされていることがあるということになる。