本の覚書

本と語学のはなし


リルケ『神さまの話』(谷友幸訳,新潮文庫


 安い美容室に行くから車に乗せてくれ、と母が言う。母を降ろして、私はジャスコの本屋に寄った。小さな本屋で品揃えもよくない。野崎歓訳の『赤と黒』は下巻だけあったが今日のところは買わない。新潮文庫と角川文庫の『変身』で、池内紀が「気楽なもんだ」と訳した「wie Haremsfrauen」がどうなっているのか確認する。いずれも「後宮(ハーレム)の女たちのよう」というような、文字通りの訳であった。
 読みたくなるような本はあまりなかったのだけど、このところの低迷を打破すべく、直ぐに読み終わりそうな本をどうしても買いたかった。やさしい語り口に惹かれて、『神さまの話』を選択する。近くのベンチに腰掛けて、直ぐに最初の一話を読み切った。「神さまのお手についての物語」。「僕」は隣の奥さんに「お手のことなら、僕も多少は聞いて知っております。ふとしたはずみで」と物語る。おお、久し振りに文学を読んでいるのだなぁと感慨にふける。
 その他に購入したのは、退職願を入れるための白い封筒、ペン2本。
 母が入った美容室の下には散髪屋もあって、今日は私も安上がりに刈って貰った。