本の覚書

本と語学のはなし

功利主義


 加藤尚武『現代倫理学入門』(講談社学術文庫)から抜書。


 価値判断をまじえない純粋に形式的な手続きだけを使って、正しい価値判断の基準を導き出そうとする試みは、どれも成功していない。(116頁)


 功利主義者は「人間が利己的でなかったならば」という前提で倫理を組み立てても、お説教に終わってしまうというのだ。打算的であるという人間の特性に即した規則を作ることが倫理の目的であって、聖人君子ならばこうするという絵にかいた餅は役に立たないとベンサムは言う。(216頁)


 かつて線を引いた中でたまたま目に付いた文章。近い内に再読してみないといけない。この本を読んで初めて、功利主義というのは哲学史上のひとつのお笑い種などではなかったのだということを知った。
 「他者」についてまるでデリカシーがないような気がしないでもないが、カントやレヴィナスだけ読んでいても始まらないだろうし、広く倫理学を学んでみることにしたい。


 加藤に対する反感もかなり強くあるようだ。
 世界思想社の『倫理学 人間の自由と尊厳』第11章「戦争と平和倫理学」(鰺坂真)では、『戦争倫理学』(ちくま新書)でカント批判を展開した加藤を、名指しで批判している。