本の覚書

本と語学のはなし

『猛スピードで母は』

長嶋有『猛スピードで母は』(文春文庫)
 芥川賞の表題作と「サイドカーに犬」を収録する。タイトルが苦手だ。
 親は離婚するか、既にしている。これは長嶋作品の基調であるらしい。「サイドカーに犬」では、家を出た実の母親よりも父の愛人の洋子さんの方に存在感がある。その姿は「猛スピードで母は」の母にも通底する、長嶋の基本的な母親像なのだろうか。
 ちなみに、「猛スピードで母は」の母は、実家に戻った時にはガソリンスタンドで働き、保育士の資格を取得して息子と公営団地に移り住み、全ての子供を平等には愛せないことに気がついて保育士は辞め、職を転々とし、最後には市役所の非常勤として貸付金の取立てをするようになる。しかし、精一杯生きているというような悲壮感は微塵もなく、子供の倫理的な規範でもなければそうあろうともせず、時々男性とも付き合うが身を持ち崩すこともなく、気張らずにごく自然に強さを身につけているような女性である。


猛スピードで母は (文春文庫)

猛スピードで母は (文春文庫)

広告を非表示にする