本の覚書

本と語学のはなし

『トリツカレ男』

いしいしんじ『トリツカレ男』(新潮文庫
 トリツカレ男のジュゼッペとペチカとハツカネズミ、それから死んでしまったタタンの、童話のように描かれたなかなかいい話。
 病院で読むにはちょうどよい。
 リハビリ中心の治療に切り替えるため、今朝、父はN病院からY病院へと転院した。同室の患者に律儀にお別れの挨拶する。同じように脳梗塞で半身が麻痺している人には、「一足お先に」と声をかける。私が見るときはいつも呆けたようにぼんやりしているのだけれど、今日の父は案外しっかりしている。
 昼過ぎに家に戻ると、斜向かいの家の前に葬儀屋の車が横付けされている。今朝、一人暮らしのおじいさんが亡くなっているのが発見されたらしい。昨日か一昨日、安定を保つために空のカートを押しながら散歩しているのを見たばかりだった。することがないらしくて、私が家の前に車を駐車するときは、いつもカーテンの隙間からこっそり様子を伺っていた。その不気味な眼差しからは開放されることになる。

トリツカレ男 (新潮文庫)

トリツカレ男 (新潮文庫)