本の覚書

本と語学のはなし

『ショートカット』

柴崎友香『ショートカット』(河出文庫
 柴崎友香については、保坂和志が誉めているようだし、芥川賞の候補にも選ばれていることだし、期待していたのだが、収められた「ショートカット」「やさしさ」「パーティー」「ポラロイド」のどれもが今ひとつだった。
 短編小説集ではなくて、連作小説集。主人公の「わたし」は全部違う人物だけど、4作に共通して「なかちゃん」が登場し(「やさしさ」では名前は出ていないけど、後であれが「なかちゃん」だったのかと気付く仕掛けになっている)、それぞれに何がしかの「ワープ」がなされる。
 解説で高橋源一郎は、これを「最高にいい小説」の部類に数えている。高橋の評価はいつでも甘すぎる気がするし、そもそも文庫解説なんかを真に受けていたら、私たちはインダス河畔の砂の粒ほどもの天才作家を擁する未曾有の時代に生きていることになるだろう。まあ、「最高にいい小説」の条件とは、「その小説以外のことをいろいろ考えてみたくなって、その小説を読んでいるのに、その小説のことを、つい忘れてしまうこと」というのだから、目くじら立てて抗議することもないのだが。

ショートカット (河出文庫)

ショートカット (河出文庫)